私は、このヴェア社の赤ワインビネガーを口にするまで、酢のおいしさを少しも分かっていませんでした。いわんや身体への効能などについて考えたこともありませんでした。しまりのない、ふにゃーっとした甘い香りだけの日本の酢。それよりは少しましでもひきつける味わいのない薄い味わいの輸入赤ワインビネガーにしても、どうして人は摂るのか、考えたこともありませんでした。酢に関する資料を読むと、驚くほど美容、健康に関するさまざまの効能が書かれています。肌をすべすべにする、肥満防止、心臓病の予防、ストレス解消、風邪予防、血圧の上昇を抑える、カルシウムの吸収を助ける、疲労回復などなど。さらにたくさんの主だった効能が書かれ、まるで酢を摂るとほとんどの病気が回復するかのようです。しかしはっきり言えることは、不自然な味わいの日本の酢や薄いワインビネガーに、これほど明確な効能などあるはずがないということです。私の子どもの頃の米酢は感覚を包みこむような厚い、厚い、香りと味わいがありました。運動会のいなり寿司、夏のキュウリとワカメの酢の物、身体がホッとする力を持ったおいしさでした。でも今のものは上品ぶった、か細く鼻先をかすめるだけの、わびしい限りの香りだけです。身体が待っている栄養素が豊かな訳がありません。
でもこのヴェア社のビネガーなら、これらの効能も可能なのかな、と期待を持たせる深く力のある味わいがあります。初めてヴェア社の赤ワインビネガーをなめた時、私達日本人にはまったく経験のない、接着剤のような匂いが鼻をつきました。しかし同じヴェア社のオリーブオイルとモンゴルの岩塩、こしょうでドレッシングを作り、野菜と一緒に食べると、その接着剤の匂いは深く安心に満ちた食欲を刺激し、呼び起こしたのです。厚みのある味わいと温かい酸味が優しく舌を包み、本当に旨いのです。理屈などいりません。深く静かにため息をつきながら、一心に食べている自分に気づきます。この酢を知ってしまうと、もう他の酢では物足りなくなります。ずっとこの深いおいしさが心と身体に残ります。そしてまた、次の日も食べることが当たり前に思えてきます。私の感覚が力強くこの酢のイメージを取り込んでいるのです。
一年ほどして、ヴェア社から今度はシェリー酒ビネガーが届きました。私はこの酢にも大きな驚きを覚えました。香りは赤ワインビネガーよりも穏やかで、鼻をツンと刺激しません。でも舌に感じる味わいはあまりに芳醇でした。力強く、まるで身体が待っているすべての栄養素をたたえているかのような、舌の感覚すべてを引き込むような味わいでした。もうここまでの凄い酢なら、薄く切ったトマトの上にモンゴルの岩塩、オリーブオイルと一緒にたっぷり適当にかければ、極上のサラダがいとも簡単に出来てしまいます。シェリー酒ビネガーはツンとしていないので初めての人にはよいでしょう。2種類のビネガーをブレンドして自分好みのドレッシングを作るのも楽しい。
和の料理でもとんでもない力を発揮します。酢味噌を作っても、おせち料理のなますを作っても、五感に暖かく浸み渡る味わいを作りだします。
鍋料理のたれ、私にはこれしかありません。醤油50g、赤ワインビネガー40g、ナンプラー10g、これを混ぜるだけ。器に野菜、肉などと汁を取り、これにスプーンでたっぷりその都度かけます。本当に旨い、バランスがよい。冬の間、何度鍋料理を食べてもまったく飽きはしない。素材の味わいを爽やかに嬉しく、豊かに盛り上げてくれます。大した優れものです。これだけ旨ければ、確かにさまざまの効能は期待できます。毎日、コップの水に大さじ1 杯強(20cc)ほどビネガーを加えて飲むと、胃、身体がすっきりします。
身体がすっきりと目覚めない時、お酒を飲み過ぎた翌日などに、ぜひ試してみてください。
日本の酢とスペインのワインビネガーの栄養素を比べると、日本の酢が含む栄養素は、スペイン産の3分の1です。あきれるほどの違いがあります。