どうしようもなくお菓子作りが苦手のレストラン、ビストロのシェフでも競争相手よりずっとおいしい冷たいデザートを必ず作らせます。
お菓子作りが初めてのアマチュアの方でももちろん超標準以上のおいしさがすぐ作れます。
※ズはつけてもつけなくてもよい。フランス語では名詞には全て男女の性があり、性別に従い形容詞も変化する。
La crème bavaroise バベール風クリームという時は、「クレーム」が女性形なので語尾にeをつけてババロアズと発音。
Le gateau bavarois バベール風お菓子の時は、「ガトー」は男性形なので語尾にeはつかずババロア。
ババロアズはフランス菓子の中でも重要な位置を占めています。でもどこのパティスリーでも本当にまずいババロアがほとんどです。
ところが私達にとっては、本当においしいババロアを作るなんてとてつもなく簡単です。というよりは、私達のマニュアル通りにやれば失敗しようと思っても出来ません。それくらい簡単なんです。それが他の本でやってみてもまずいものしかできないということは、それらの本にはババロアを作るための正しくない間違った考え方、作り方が書いてあるからです。
何故そんなことになってしまうかと言えば、彼らは何も日本の素材の特性とその正しい使い方を知らないんです。ただそれだけです。その本を書いた人がプロであれアマチュアであれ、内容は似たり寄ったりです。
もちろん私は誰よりも正しくババロアを理解し、それに適合する技術、器具を使います。
ババロアは卵黄に砂糖、牛乳などを混ぜて優しい熱で80℃ほどまで加熱し、卵黄にとろみをつけて味わいに深みと力を出す。それだけです。私たちはステンレスのボウル等を使わず、比熱※が大きくて厚手の耐熱性のガラスボウルを使い温度計で計りながら弱火で加熱します。もうこれだけで誰でも卵黄を煮えすぎてボロボロになることがありません。ちょうどよいとろみがつき、味わいが豊かになり力と深さが出てきます。卵黄が煮えかえってしまえば、水っぽい味わいの希薄なババロアになってしまいます。そして氷水につけて手早く混ぜながら、滑らかさを保ちながら、経験上から得た生クリームが味わいや舌触り、口溶けが劣化し、注意深く作れば誰がやっても失敗しない仕組み、作り方が示されています。ふつうは18℃で生クリームを混ぜます。もちろん、冷やし方、混ぜ方も詳しく写真入りで説明してあります。
私達は生クリームや卵黄すべての素材の特性を熟知していますから、不必要な間違った工程はありません。本の通りにやれば単純明快においしいババロアが出来てしまいます。
もちろん少量のババロア作りに必要な幾つかの器具は揃えなければなりませんが、そんなに高価なものはありません。
お菓子作りをやっていて、本当はこんなに簡単においしいババロアが作れないのではお菓子作りの楽しさはほとんど失われているようなものです。この本で一度作ってみて下さい。「うわっ、本当にうまい。出来てしまった」と驚きます。そんな貴方の驚きの表情が目に浮かびます。
春夏秋冬に合わせて杏、フランボワーズ、カシス、白ワイン、コーヒー、チョコレートその他の味わいが本当に楽しく嬉しく、そして極め付きのおいしさで載っています。
この本のババロアは仕上げ、デコレーションは出来るだけシンプルにして、イタリアン・メレンゲなどは加えず、まずババロアをしっかりおいしく作って頂くことを目標にしています。
※比熱とは
物質を温度1℃上昇させるために必要な熱量。水は1で最も比熱が大きい。比熱が大きいものの方がガスの火が柔らかく、均質化されて卵黄に伝わり、滑らかなとろみがつく。もちろんこのような説明もしっかりします。
私はパートゥ・フイユテが大好きです。作るのもとても楽しいし、とにかくとにかくおいしい。整形し終えた焼く前の形がオーブンの中で大きく変化します。これが、とんでもなく楽しい。そして深く食欲をそそる焦げ臭が全身をおおい、ザクッ、バリッ、ザクッという歯ざわりが五感を圧倒します。とにかくどれをとってもたまらないおいしさです。
パートゥ・フイユテはプロのお菓子屋さんの間でも難しいものとされ、作ろうとしなかったり、出来合いのパートゥ・フイユテを使うところがほとんどです。
でもやはりちゃんとフレッシュの発酵バターで作れば、出来合いのものとは大きく違い、本当においしく焼きあがります。またおいしい様々のパイを出せないようではフランス菓子の大きな部分が失われてしまいます。ちょっとだらしない。
日本でパートゥ・フイユテが難しいとされるのは、日本とフランスのバターの特性の違いを理解していないからです。日本のバターはフランスのものから比べれば融点が低く、熱に対して弱く、また薄く伸びる伸展性が劣るために途中でバターの層が切れやすく、浮きが悪くなりやすいのです。
しかし、バターの特性にあった作り方をすれば、パートゥ・フイユテは難しいものではありません。そして小麦粉に含まれるタンパク質によって作られるグルテンの質の違いの理解も大事です。
勿論、私たちは日本のバターや粉の性質を熟知しているので、皆さんに最良の平明で確実な作り方をここでも示しています。
この本では練りパイ(またはアメリカンパイ)を作ります。100%に近い人が、練りパイは折パイと比べると浮きが悪くおいしくないと考えていますがそうではありません。バター、粉の性質をよく理解して作ればよく浮きますし、またバターの層が折パイほど薄くのびないので、バターが粉に深く混ざらず、その分折パイよりバターのリッチな味わいがより舌に感じられます。
内容は様々なパイに溢れています。そのどれもが極め付きのおいしさです。
イル・プルー・シュル・ラ・セーヌのミルフイユよりおいしいものは他にありません。全身の感覚が温かさに満ちた力強いおいしさに圧倒されます。そしてイル・プルー・シュル・ラ・セーヌの超ヒット商品のリーフパイ(正確にはラング・ドゥ・ブッフ=牛の舌)、子供も大人もこのおいしさに酔いしれます。生クリームを詰めたコルネ、生クリームとパイがこんなにも印象的なハーモニーを作ります。そして、栗を中に詰めて、表面にマッチ棒を並べたような模様で焼きあがるアリュメットパイ。フレッシュチーズをはさんだものも本当にうますぎる。
こんなとんでもなくうまい様々のパイのお菓子を知らないとは本当に寂しいお菓子作りになってしまいます。
出来るはずがないとは思わないで、まず作ってみてください。最後には必ず大きな喜びが待っています。
やっぱりパウンドケーキも、どこの店も極め付きのイル・プルー・シュル・ラ・セーヌのおいしさにはかないません。何でこんなに作り方が簡単なはずのものが、あんなにまずいんでしょう。
この本のパウンドケーキはほとんどオリジナルのものばかりです。
確かにオリジナルの新しいパウンドケーキを作るのは何回も試作して出来上がる訳ですけれど、一度出来上がった味わいを再現するのはとても簡単です。でも出来上がったものがまずいのは、あなたが見ている本の内容が全て間違っているからです。
様々の本に書かれているパウンドケーキの作り方にも嘘が溢れているのです。まずどの本にもバターが白くなるほどにはよく泡立てると書いてありますが、実は泡立ててはいけません。泡立てると素材同士が混ざりすぎ味わいは隠れてしまいます。また膨れすぎ、焼き縮みなどが起こります。バターは固すぎても溶かしすぎて柔らかすぎてもいけません。少し艶が出ているがしっかりした柔らかさを保ちながら他の素材を分離しない程度に混ぜていきます。ひどい本にはパウンドケーキは卵が分離してもよいだとか、生地を一晩溶かせるだとか、とんでもないことが書かれています。
このパウンド本の味わいと配合はとてもおいしく完成しています。そして作り方も本に書いてあるように注意深く作っていけばまずいものなんて出来はしません。
作り方はとても簡明になっています。大きく言えばバターを混ぜやすい柔らかさにしたものにホイッパーでゆっくりなるべく泡立てないように砂糖、卵、その他を混ぜていく、そして最後に粉は必ず木べらで手早く混ぜる。通常粉はホイッパーで混ぜません。ホイッパーで混ぜると粉のグルテンと澱粉が他の素材を包みすぎ、豊かな味わいは隠れ、バターの少ない生地のようにモコモコパサパサした食感になってしまいます。混ぜる工程の写真は十分にあり、事細かにポイントが書いてあります。ただそれだけです。ゴムべらでバターに砂糖、卵を混ぜる人もいますが、これもとんでもない。よほどバターが必要以上に柔らかくないと他の素材はよく混ざっていきません。ホイッパーで混ぜます。この本には様々の味わいのオリジナルのパウンドケーキが載っています。正に「おいしさ変幻自在」なんです。
杏のパウンド、一度に全身に春の陽に包まれ、目がパッと開きます。正に春を運ぶおいしさ。チーズのパウンドケーキ、心と身体に暖かい力がフツフツと湧いてくる身体が目覚めるおいしさです。栗のパウンドケーキ、これもあちこちにありますが、これらの常識を大きく飛び越えたおいしさです。しっとりとふっくらと秋の深さに包まれます。その他たのしく嬉しいいろんなパウンドケーキが載っています。
もちろん実際にデモンストレーションを見て作る場合とは違って本の限界はありますが、最低でもそれなりにうまいものを作らせてしまう。それがイル・プルー・シュル・ラ・セーヌの本です。
この本で一つでも作ってみれば、いかに様々の巷の本などがほぼ存在する意味のないものだということがすぐに分かります。
2014年に他界した深堀紀子さんが私のアドバイスの下に何度も何度も試作を繰り返して作り上げた新しく楽しく嬉しい味わいのシフォンケーキです。
シフォンとは滑らかでソフトは肌触りの布を意味するとのこと。
卵に対して粉の量を抑えて卵のソフトさ、しなやかさを強調した生地です。粉の量がとても少ないのでオーブンから出して生地が冷えて生地内の圧力が下がり始めると生地が縮むのを防ぐ柱となる粉の澱粉やグルテンが少ないので引力で生地はしぼんでしまいます。そこで生地を逆さまにして引力が生地の底から上にかかるようにすれば生地はしぼまず、スダチもそのままで一番柔らかさが生きてきます。
しかしただ柔らかければいいってものではありません。普通の作り方はまず粉と卵黄などをハンドミキサーなどの強い力でかなりまぜ、粉のグルテンを100%近く生成させます。これにメレンゲを混ぜると細かく網の目状に張ったグルテンが他の素材を包み、スダチは細かく柔らかい歯触りに焼き上がります。
しかしグルテンは味わいが希薄で他のものをしっかり包んでしまうと他の様々の素材の味わいを隠してしまいます。おまけにグルテンは歯にまとわりつく情けない歯ざわりとなってしまいます。
要するにただ柔らかいだけの、それだけしか能のない本当はおいしくも何ともない無節操な味わいです。私には少しもおいしくなく、むしろ不快な味わいです。私はお金をもらっても食べたくありません。
私達のシフォンケーキは粉は最後に混ぜて、過度のグルテンの生成が味わいを隠さない程度に出します。
スダチは、グルテンを目いっぱい出す製法より少し粗めですが、メインとなる素材の味わい、香りが豊かに感じられ、とてもおいしい。これを一度食べれば、歯にまとわり付くフニャフニャだけのシフォンケーキはもう食べられません。
シフォンケーキでの一番のポイントは混ざりのよいしっかりしたメレンゲを作ることです。そして混ぜ方、どの本にも書いてあるように手早く混ぜてはメレンゲに強い衝撃が加わり、メレンゲはつぶれて出来上がりの生地量が少なく、また十分に浮かない焼き上がりになります。
粉を混ぜる時もゴムべらで混ぜてはよい状態に混ざりません。ここではイル・プルー・シュル・ラ・セーヌのオリジナル器具エキュモワールでメレンゲにダメージが加わらないようにゆっくりめに混ぜていけば良い状態の生地が出来ます。
もちろん工程のポイント、説明、写真は可能な限り詳細にしています。
ラズベリー、パッションフルーツ、栗、シナモン、チョコレートなどの甘いシフォンケーキと共にベーコンとピーマン、香草とチーズ味の塩味のもの、何度もの試作の末に私の舌をパスしたどれもとびきりの22種のおいしさのシフォンケーキを深堀さんが作り出してくれました。
著者:椎名眞知子 / 深堀紀子
ISBN:978-4-901490-21-4
A4変型判 120ページ
本体価格:¥1,800+税
2008年5月/初刷発行
この本はすごいですよ。この種の本は普通、おいしさは問題外、とにかく数だけ冷たいものを揃えたものがほとんどです。少しもおいしくない冷たいお菓子のオンパレードです。世の中にはそんな本ばかりが溢れ、本当においしいものを読者に作らせる本なんてどこを探してもありません。でも家で作るおやつのためのちょっとしたものだって、素材を知り、心を込めて向き合えば、本当に簡単にとびきりおいしいものができるんです。この本の様々の味わいを実際に作り出したのは、椎名と深堀です。でも私の味わいの感覚に合うまで、私は何度も何度も食べ、何度も何度も作り直しさせました。私の感覚がOKを出したものに、まずいものがあるわけがありません。
まぁよくもいろんなものを作りました。アイスクリームやシャーベットはフランス菓子でも作ります。それだけではありません。水羊羹に宇治金時のカキ氷にアイスキャンディー、そして女の子が小さな頃あこがれたパフェなど、これまで踏み込んだことのなかったものまで作りました。もちろんこの日本にこの本に載っているカキ氷やアイスキャンディー、水羊羹よりおいしいものはありません。完全に私の味わいに仕上げられたものばかりです。
この本は孤高のおいしさは目指しません。孤高のおいしさを作るためにはそれなりの時間と訓練が必要です。でも今すぐにあなたはレストランやビストロよりもずっとうまい冷たいデザートを作りたい。そんな虫のよい話を可能にする本です。おいしさのための細心の技術を出来る限り取り除いてもうこれ以上は出来ないまでに技術をシンプルにしました。でも孤高ではなくても世の標準よりはずっとおいしいものができるのが、この本の作り方です。