蜂蜜のおいしさはもちろん、それぞれの花を付ける植物が育つ土地の豊かさ、つまりミネラルの幅の豊かさによって決まります。日本の土は雨が多く、地中のミネラルが常に流され続けて希薄になっています。そのためにそれぞれの植物にとって必要なミネラルが量としても幅の広さや種類としても不足しています。それぞれの植物の特性が十分に形成されません。そのために総じてそれぞれの蜂蜜の味わいも薄く、レンゲであれ他の花であれ、色や味わいに大きな違いは感じられません。
でも日本の蜂蜜も私の子どもの頃は今よりも野菜や畑の土はもっとミネラル豊かでしたから、ずっとおいしかったのではと思います。以前は、蜂蜜はとても高価なもので、普通の家では口に出来ませんでした。でも余裕のある家では誰かが病気になったりすると滋養をつけるために蜂蜜を摂ることもあったようです。蜂蜜の食品標準成分表を見ると、限られた項目の中ではそれほど栄養がないように見えても、分析されていないその他の膨大数の栄養素はとてつもなく豊かであることはすぐに察しがつきます。蜂の生命の全てを司り、女王蜂の壮絶な生命の繁殖力を支えるのですから、本来は基本的な栄養素の集合体なのです。土のミネラルが日本とは比べ物にならないほど豊かなフランスのプロヴァンスやスペインの花々には、それぞれの花の色、香りも日本のものから比べれば強烈に濃く、鮮やかです。それぞれの植物が必要としているミネラルをほぼ完全に含んでいるので、それぞれの植物の本来の個性が完璧に近く実現されているからです。
そして、これらの花の蜜から作られる蜂蜜はその色から味わいまで、植物の種類によって大きく異なります。
それぞれの味わいにはっきりした個性があり、とにかく身体中のすべての視線がいっせいに集中する浸み渡る旨さなんです。とても濃く、印象的です。
私はパンにそのままつけて食べるのが一番多く、クレープなどにつけてもとてもおいしい。また朝食後にスペイン産のレモンジュースを少しの水で割り、蜂蜜を溶かして飲んでいます。本当においしい。身体がすっきりと落ち着き、力が湧いてくるのを感じます。
これらの蜂蜜を使い、パン・デピス、蜂蜜のパウンドケーキ、チョコレートや栗のクレーム・シャンティイなど様々のお菓子を作りました。どれもが本当においしい。それはこの命を揺り動かす豊かな味わいをもったハチミツが与えてくれた、神様からの贈り物にしか私には思えません。