日本にはフランスから2社のパートゥ・ドゥ・マロンが輸入されています。あれを旨いと思っている人は多いと思いますが、フランス国内で供給されているものから比べれば、日本向けの手抜きの、まったく栗の味わいの希薄すぎる、バニラの香りでごまかした代物です。でも名の売れたパティスィエであっても日本人はそれも見抜けない。まぁ情けない。
私は何とか本当に旨い栗の商品はないかと、何度となくスペインのガリシア地方を訪れました。あるメーカーで商談をしていたところ、そこの社長に電話がありました。
電話が終わって彼は嬉しそうに言いました。フランスのA社からくず栗の注文が入ったと言うのです。栗には3段階あり、一番下の虫食いのものが混ざったものです。
それを安く仕入れ、虫食い栗の不快な匂い、味を消すために長い時間煮ます。虫食いの不快な味わいと共に肝心の栗の味わいも消えてしまいます。それをご
まかすために強めにバニラの香りづけをして作りあげるのです。少なくないフランス人は、日本人にはこんなもんで十分だと、無知極まりない日本人パティスィエの足元を見て、やりたい放題のことをしています。
このスペインの栗はやっと探し当てた、私の舌が満足する本当に温かい、深い味わいを持っています。
栗のババロアに加えても、生クリームの中に散らしても、またパイの中にクレーム・ダマンドゥと一緒に焼き上げても、食べる人を嬉しく幸せにするマロンのパイが出来上がります。お菓子を作る作り手にも幸せ感を与えてくれます。
通常パートゥ・ドゥ・マロンは栗にボーメ32°まで砂糖を浸透させた栗をすりつぶしてパートゥ状にしたものです。この工程で栗そのものの味わいはかなり変わります。
このパートゥ・ドゥ・マロンは糖度が55度と低く、スペインの豊かな土地の恵みを十分に含んだ栗の味わいが十分に残っています。
ババロアに加えても、生クリームに加えても、またアイスクリームに混ぜても、あるいはパイなどに詰めて焼きあげても、心に浸みこむ温かいおいしさが得られます。
スペイン・ガリシア産サティバ種の栗は水分が少ない割にタンニンをそれほど含んでいないため、果肉は自然で明るい色をしています。この産地の栗は非常に風味があり、保存料・着色料を使わない最高の自然食品です。生産地で収穫されたすべての栗を粒の大きさ、形、艶でより分け、良質の栗を製品化していきます。