ちょっと正しく頑張れば こんなにおいしいフランスの家庭料理
ただ料理を作ること、食べることが好きだった主婦の私がこの本を出すまでに至ったのは、弓田亨というパティシエと、パリ「パティスリー・ミエ」の元オーナー・シェフ、ドゥニ・リュッフェル氏との出会いがあったということ。それが全てです。
弓田亨が作り出すイル・プルー・シュル・ラ・セーヌの味に魅了され、菓子教室の講師として勤め始めた私ですが、その半年後にフランス料理の講座を新たに開設することになりました。試作の料理を食べては「うまくない」「食えねえ」「味がしない」「香りがしない」と繰り返し言い続けた弓田の熱意、そして食べた人を見な笑顔にしてしまうドゥニさんの暖かい料理やお菓子の数々を間近で見せて頂いたこと、そのお蔭で私は今も料理教室を続けています。
毎年夏に開催するドゥニさんによるフランス菓子・料理の講習会の回数は、そのままドゥニさんと出会ってからの月日と重なります。そして今、私は少しでもドゥニさんの料理をたくさんの方達に伝えていきたいと思っています。
その一方で日々料理を作る中で、日本で当たり前にフランス料理を作ることの難しさも感じます。その要因の最たるは日本の素材です。日本でフランスと同じ味わいを出すためには素材に力が溢れているフランスでは必要のない「おいしくする工夫」が不可欠なのです。この本の中にある味の補いも、フランス料理を日本でおいしく作るための手段です。
フランスの素材は野菜はもちろん、魚までもが日本とは全く違うのです。そのために魚のムースを身で包んで茹でるポピエットも、そのままではソースの味に負けてしまいます。魚の身から水分をとり、魚のムースにはフュメ・ドゥ・ポワソン(魚のダシ)を煮詰めて加えるなどの工夫をし、干し鱈を加えて煮詰め、香りと味わいの幅を広げています。
ビーフシチューもドゥミグラス(肉や骨、香味野菜から8時間ほど煮てとるダシ)を作る工程と肉を煮る工程を一つの鍋の中でするのですが、ソースの味わいを深めるためにベーコンやグラス・ド・ビアンを加え、香味野菜はフランスより量を多く、またオリーブオイルでしっかりと炒めて、あとはひたすら脂をとりながら煮ることで本当においしいビーフシチューが出来ます。まるで何日もかけて煮込んだようなこっくりとした味です。
この本は家庭料理の本ですが、このイル・プルーのメニューを掲げてレストランやカフェを開いている方がいます。「本当においしいとお客様から感謝されます」と話される顔が本当に輝いていました。
配合は出来る限り細かく、手順も写真も必要なことは誌面の許す限り書き留めてあります。
おいしい料理は皆を幸せにします。
おいしいものを食べたい、食べさせたい。だからこそ料理を作るのです。そして何よりもおいしい料理は元気な身体を作ります。これからも、おいしくて身体を元気にする料理を作っていきたいと思います。