私は今、これまで誰もが到達しえなかった孤高の味わいの領域にいます。日本のどのパティスィエよりも旨いフランス菓子を作ります。
本当においしいフランス菓子を作るためには何が必要か。勿論、卓越した技術と舌、そして私の目にかなう素材です。
私にはこれまでの歩みの中で研ぎ澄ましてきた、他の誰にも触れることのできない味わいの感覚があります。私はお菓子作りのための素材を選ぶ時、フランス人や有名パティスィエが推奨しているからといってそれを選ぶようなだらしのないことはしません。誰もが凌ぐことのできない、この舌の感覚で素材を見極めます。私が選んだイル・プルー・シュル・ラ・セーヌの素材を知らずして能書きを語ってはいけません。私の選ぶ素材は間違いなく貴方が作るお菓子を他のどれよりもおいしくします。
私達日本人パティスィエはフランス、イタリア産というだけで他愛もなく良い品質に違いないと思い込んでしまいます。しかしそうではありません。主にフランスやイタリアから輸入される菓子材料は、サプライヤーは初めはフランスで流通させるものと同じ高品質のものを供給し、こちらの様子を見ながら少しずつ品質を落としてきます。そして最終的に「こいつらは何も分かりゃしない」と判断するとフランス人とイタリア人は徹底してやりたい放題のことをやってきます。そしてほとんどの食材がどんどん、どうしようもない品質へと落ちていきます。オ・ドゥ・ヴィ、リキュール、コニャック、カルバドス、チョコレート、パートゥ・ドゥ・マロン……。ほとんどが日本向けに作られた手抜きの低品質のものなのです。
私は常々材料問屋さんや輸入業者の方々にこの事実を熱く伝えてきました。フランスからの製菓材料の品質の劣化が著しく、さらにそれは進行していることを、そして何とかこの状態を変えてほしいと頼んできました。しかし状況は少しも改善されません。日本に来るグラン・マルニエ、コワントゥローは薄っぺらなオレンジの香りの砂糖水のような劣悪極まりない品質です。日本人のセールスにこのことを言っても、「私はフランス人の言っていることを信じます」の一点張りでした。日本人の最前線の技術者の言うことをまったく相手にしません。青い目への劣等感。これはどうしようもありません。彼らは青い目を目の前にすると何も言えないのです。
「あなたたちがやってくれないのなら、俺は自分でやる」
それが捨て台詞でした。もうその言葉が吐かれれば、私はいつもの鉄砲玉です。何も目に入りません。いつもそのことばかりを考え始めます。
「こんな無謀な事を始めても絶対うまくいくわけがありませんから、輸入業務なんてやめましょう」
何度も周囲から言われました。でも鉄砲の引き金はひかれてしまったのです。
そして偶然イル・プルーの輸入業務に携わることになった社員と2人、フランスのサプライヤーの元に旅立ちました。最初に訪れたのはアルザス地方で蒸留酒オ・ドゥ・ヴィを造っているルゴルさんのところと、ブルゴーニュ地方コートゥ・ドールのジョアネさんのところでした。その後、少しずつ取引業者が増えていきました。もちろん輸入業務は甘いものではありません。それもまったく何もないところから始めるのですから、多少なりとも形がつくまでは本当に大きな不安の連続で、自分の馬鹿さ加減を心底呪いました。
こうして私共がまったく無の状態からヨーロッパの秀逸な素材を探し始めた1994年以降、フランス、スペインに度々足を運び、自分の足と舌で素材を見つけることに努めてきました。今考えても、会社はよくつぶれないで来れたなぁと思いますし、もう二度とこんな大それたことは出来ません。でも未知の地を恐る恐る訪ね、多くの未知のものに出会い、驚き、打ちのめされ、感動もしました。
普通では得ることのできない様々の経験が人生の後半の自分を形づくり、舌を研ぎ澄ませ、そして今のお菓子にも大きな力と幅を与えてくれたと思います。
そして今は素材の味わいを正しく鑑定出来るパティスィエは私しかいないと断言できるほどになりました。
もう、私たちはいくつかの浅はかな無知ゆえの思い込みは捨てなければなりません。フランスのものはすべて日本より卓越しているという思い込みもその一つです。フランスは既に大きく変質しました。パリの名店「パティスリー・ミエ」のオーナー・シェフ、ドゥニ・リュッフェルを除いて真にフランス的な多重性と多様性をもった料理やお菓子を作れるものはいません。ましてや日本の素材を深く理解できていないフランス人にこの日本で真においしい料理やお菓子を作ることはもっと不可能なのです。そしてフランスやイタリアから輸入される素材にも、疑いの目を向けなければなりません。もう、自分の正しい目と舌で判断しなくては!!
私が集めてきた素材のほとんどは、私のお菓子作りの人生のすべての経験と知識、そして執念をもって現地に足を運び探したものであり、その味わいの豊かさは、正に抜きん出たものであると確信しています。
ここでは単に商品を並べるだけでなく、それらの素材に行きつくまでの道のり、何故これらを選んだかを詳しく述べています。それぞれの素材について詳しく理解して頂くと共に、フランス菓子を作る上での必要な知識も豊富に書かれています。きっとフランス菓子をより深く理解するための大きな助けとなるものと確信しています。ぜひ最後までじっくりお読みください。