私のルネサンスごはん ごはんとおかずのルネサンス

第3回:近松恵美子さん(玉名市議・玉名元気ネットワーク主宰/熊本県玉名市)

【その2】2010年、春と秋、二度の講演を経て──。
私はルネサンスごはんを一人でも多くの人に理解してもらいたいのです。
何故なら、ルネサンスごはんを継続し、日本人の尊厳を取り戻すために、です。

──実際にルネサンスごはん食べてみた感想は如何でした?

近松恵美子さん(以下、近松) 講演会を開こうと思った時、まず講演会を一緒に手伝ってもらう仲間に弓田さんの考えやルネサンスごはんを分かってもらうため、大根の味噌汁、筍の煮物、筍とふきの煮物を作ってご馳走しました。

ルネサンスごはんは味がしっかりしているけれど、しょっぱいというわけではないので、喉が乾かない。煮る時間を無駄に長くしないことで、素材の個性と栄養をなくさないようにしていることも分かりました。

 また、砂糖を入れない料理を作るようになってみて、外食で食べていたような砂糖で誤魔化している料理に敏感になりました。また今までも魚料理以外は砂糖を使っていなかったけれども、弓田さんの料理を食べてからは、より一層、砂糖の入った料理に敏感になりました。

──2010年4月、玉名で初の講演会と、料理講習会を行いました。講習会の時は、あさりの炊き込みご飯、大根の味噌汁、金平ごぼう、肉じゃが、そして基本のアーモンド入りご飯を作って食べてもらいました。その時の印象など教えて頂けますか?

※調理の実演をする『ごはんとおかずのルネサンス』共著者の椎名眞知子(2010年4月16日。岱明町公民館にて。あさりご飯、金平ごぼう、春の肉じゃが、大根の味噌汁、そして基本のご飯としてアーモンド入りの白ご飯を作りました)

※料理講習会を終えて記念撮影。弓田(中央)、その右隣に近松さん。

近松 そうですね。まず料理教室の前日に、使う材料を弓田さんに見てもらいました。その時、弓田さんがごぼうを生で齧られたの でビックリしました。「味がない。ダメだな」と仰って。それで私も実際に生で食べてみて、ごぼうの味ってこんなにしないものだったかな?と愕然としました。あの出来ごとは、講演会の間中もショックでした。

──よく東京の人は、弓田が「今の野菜はまずい」と言うと、「それは東京の話でしょう?」と言うんですよ。

近松 あちこち弓田さんと産直野菜の販売所を回りました。あれもいい思い出です(笑)。でも確かに、弓田さんが考えたルネサンスごはんを作った時、私たちは本当のおいしさを知らなかったんだなぁ、と思うようになりましたよ。

──例えばどんな場面で思いますか?

近松 保育園でもルネサンスごはんを作って食べてもらったことがありますが、皆、むしゃむしゃ食べるんです。その姿を見ていると、「ああ、戦後の子どもたちって、こんな感じだったなぁ」って。弓田さんも、「ご飯が炊ける匂いで目を覚ました」と言っていますが、本当に昔はそうだったなぁ、と思い出しました。

──玉名の子どもたちは変わりましたか?

近松 20年ほど前に私が保健師だった頃、3歳児健診をしていた時に「気になる子」は1割くらいでしたが、2年前くらいから3割、そしてさらに今では4割近い子が、「気になる子」だと言います。

 小学校でも、じっとしていられないなど落ち着きのない子が目立ちます。また、午後は眠る子がいるから主要4教科は入れないようにしている、と聞きました。全国的に発達障害が増えている、と言われていますが、玉名でも発達障害などの子どもを支援する支援員の教師の数が毎年増えてきている、というのが実情です。

 こうした子どもたちの実情なども見ていて、やはり私も弓田さんが仰るように、家庭料理の復活が大事だと考えています。

 私は弓田さんが、「狂気ともいえる使命感」で、取り組まれたこと、その重みがわかるからこそ、そのことの重大さを、わかってもらえる講演会にしたいと思いました。私は、あの本を読んだときの衝撃を忘れません。涙が出るほど事の重大さを認識し、震える思いでした。

 ルネサンスごはんの話をすると、素直に取り入れて、喜んでいる人が大半です。でもその一方で、「なんで?」と頑なにこだわる人もいます。私は「なんで?」の理由をきちんと多くの人に理解してもらいたいんです。それは何故か。ルネサンスごはんを継続し、日本人の尊厳を取り戻すために、です。

──でも残念ながら、2010年4月の講演ではそこまで伝わらなかった、と。そこに関しては我々の力不足もあり、近松さんには申し訳なかったなぁという気持ちがあります。

※2010年4月17日の講演を終えて。玉名市民会館の前で弓田(左)と。

近松 私は、自分が心から尊敬する弓田さんの深さをみんなに伝えることができなかったことが悲しくて、涙が出そうでした。

 4月の講演で最も足りないのは、「ルネサンスごはんとは何か」ということ。そして弓田さんの経験からくる話が少なかったということです。何故フランス、スペインなのか。何故オリーブオイルなのか。何故砂糖やみりんを使ってはいけないのか(お菓子を作っているのに)。そして、何故、日本の野菜は世界で一番まずいのか。

 私は弓田さんから直接お話しを伺えましたし、本も読んでいましたから納得していますが、今まで全くこの手の話を聞いたことがない人達にとっては、理解に苦しむ話であったようです。日本を救うために、狂気にも似た思いで考えたルネサンスごはん。それをきちんと伝えるのは弓田さんにしか出来ないと思うのです。

 私は弓田さんの世界は、決してグルメを目指すとか最高級のものを食べる、ということではなく、当たり前の世界を実現するため、知ってもらうための手段だと認識しております。でもこのことを分かっていただくのは、難しいですね。

──それでまずは実際に食べてもらう、ということで、出汁を見せたりするようになった訳ですね。

近松 そうですね。講演会の後、はるばる玉名に来て、たくさんのことを教えてくださった弓田さんの好意を無駄にしないため、家に来た人には、アーモンドを持たせ、昆布や、厚削り鰹節を見せ、ご飯を食べさせ、話をするようになりました。

 講演の補足説明をするような感じで、講演後、いろんなところを周って、ルネサンスごはんを説明し、まずはやってもらえるよう活動しました。

 特に、出汁をいりこ、昆布、鰹節の3つを基本的に使うことを毎回説明された方がいいと思いましたね。というのも、前回(4月)の講演で話を聞いた人が、「とにかく、いりこを入れてください」という部分だけが印象に残り、いりこしか使わずに味噌汁を作って「おいしくなかった。孫も食べなかったわ」と言ってきた方もいましたから。そこは私も負けじと、「冊子に、出汁としていりこ、昆布、鰹節の3つを使うと書いてあったでしょう」と応戦しましたけれど (笑)。

──そして『ごはんとおかずのルネサンス基本編』の発売後、秋のリベンジ講演会(2010年9月19日)へと繋がりました。この間で、かなりルネサンスごはんの普及活動をされていたと伺いました。例えば味噌汁の出汁セットを配るなど。

近松 最初の頃は、家に来た方にルネサンスごはんを食べてもらったり、出汁をこんな風に使うのよと見せていたんです。でも出汁セットがあれば、すぐに作ってもらえるんじゃないかと思いまして、4人分のレシピの味噌汁の出汁セット(いりこ3g、昆布3g、鰹節厚削り3g)を配るようになりました。アーモンドもね。やはりごはんに入れるとおいしいので、キロ単位でイル・プルーさんから買って、それを欲しい人に分けています。お蔭で私もデジタル秤を買いました(笑)。

──本当にその行動力には頭が下がります。

近松 出汁セットはなかなかいいアイデアでしょう? 保育園の保護者会で、ルネサンスご飯と味噌汁の試食を出して、お土産に味噌汁の出汁セット(4人分)をつけたりしました。昆布3gなんて、分かりませんから実物を準備してあげるんです。幼稚園の子育てグループの集まりにも、ごはんと味噌汁を出しています。これも実行してもらうための作戦です。

 私は、アーモンドを購入したところで、月に1000円くらいの負担だから、この程度なら遠慮することなくイル・プルーの上質なものを紹介し味を感じ、体調の変化を感じていただいたほうがよいと考えています。ですから、積極的にきちんとしたオリーブオイルとアーモンドを使用したご飯を紹介しています。

 老人のデイケアで仕事をしている女性からも、昼食にアーモンド入りのルネサンスごはんを出したら、普段ごはんを食べない人もたくさん食べて、会話が穏やかになったという報告もありました。

──そうした地道な宣伝活動もあって、9月の講演会でも沢山の方にお集まりいただきました。その時のリベンジ講演で心がけたことを改めて教えて頂けますか?

近松 9月の講演会は、体験発表も入れて、コメントをいただくことや、あの料理を作り出すまでのプロセスを伺いたいと思い、構成を考えました。

 ルネサンスごはんのメニューをどのように組み立てたのか、そこにたどり着くまでにどのような試行錯誤があったのか。その核となるのは、「今の食材では健康を保てないんだ」ということを強く印象付けるということでした。そして実際にルネサンスごはんで体調が改善した同じ玉名の人達の声を聞くことで、実行してみようと思わせること。とにかく、食いつくまでには相当の工夫がいると思いました。

 弓田さんはご自分の努力を話さないけれど、ルネサンスごはんを作ろうと思ったお気持ち、どのようにして作り上げたのかという苦労話をして頂ける方が、料理の意味がよくわかってもらえると思いました。感情が人の心を打つのです。

──確かにそうかもしれませんね。

近松 やはりお話だけでなく、具体的な資料をもっと提示したほうがよいと思います。特に講演会では、「味」をわかってもらう機会はありませんので、説得力のある資料を作っていかれたほうがよいと思います。

 大体、毎日おいしい料理を作っている、と大半の主婦は自負しているので、「真実のおいしさ」の意味はわからないだろうと思いますよ。ここのところをもっと丁寧に伝えるほうがよいと思います。

──弓田も9月の講演会は、近松さんのアイデアの勝利だと、とても喜んでいました。あれ以降、他の講演でも、食品標準成分表の数字等も使い、野菜から栄養素が減ってきているというのを視覚的に見せるようになりました。

近松 やはり4月の講演会で一番足りなかったのは、「ルネサンスごはんとは何か」という話の柱がなかったことだったと思います。それを説得する方法、話を聞いた人が実践に移してくれるような流れを作りたいと思いました。

 そこでまず、食材の力がない、栄養素が少ないことに対する危機感をもつように、海外からみた日本の食材の印象や、ルネサンスごはんを具体的に、すぐに実行できるように説明。皮、灰汁抜き、電子レンジ、冷凍、などについても味覚の点から感じてみるように話されると反感が出ないのではないかと思いました。

 やはり、今までしてきたことを否定されると受け入れられない、という人もいますし。

──9月の講演会後の反応は如何ですか?

近松 講演の後、早速種を買って、種まきをしたという人がいました。少しでも栄養のある野菜をつくるために。また子ども達はおやつがわりにいりこを食べる、と言っていました。保育園でもいりこをおやつに出しているので、お店で、「いりこを買って」と親に頼み、家で食べる子がいるそうです。嬉しいですね。


その3へ・・・

【その1】弓田さんの本を読んだ時、自分と同じ人種だなと感じました。思い込みの強さ、正義感、歯がゆく思う心、思うようにならない悲しみ──。その思いを伝えたいと、講演会を開くことを決意したのが全ての始まりです。
【その3】これからも料理教室をやりながら、地道にルネサンスごはんの普及を続けていきます。





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