第11回:木内覚さん(パン製造業)
木内覚さん プロフィール
パン製造業。奥さんとお子さんと3人暮らし。ルネサンスごはん歴10年。
2003年にイル・プルーの入門速成科(現・楽しく洋菓子科)でお菓子を学び、お菓子についてだけでなく、「食」に対する概念が全て変わった。現在も毎年ドゥニさん(※)の夏の講習会にはほぼ欠かさず参加している。
「ごはんとおかずのルネサンス」初版が出た頃、子どもの誕生をキッカケにルネサンスごはんを始める。
※ドゥニさんとは・・・
弓田亨が生涯の友と呼ぶパリ「ジャン・ミエ」オーナーシェフ。料理は心と身体の幸せのためにあるというルネサンスごはんの原点は、ドゥニさんとの出会いなくしては生まれなかったと弓田亨が語る、フランス・ガストロノミーの伝統を受け継ぐ最後の巨人。
http://www.ilpleut.co.jp/ecole/denis/index.html
子どものために何がしてあげられるだろうと思った時、
最初に浮かんだのは健康な身体を与えてあげることじゃないかと考えたんです。
そして「食べ方」についての本は当時ほとんどありませんでした。
──まずは、木内さんとルネサンスごはんの出会いについて。お話頂けますか?
木内覚さん(以下、木内) 私のルネサンスごはん歴は、まさに本の歴史と重なります。2003年に「ごはんとおかずのルネサンス」の初版が出版された当時、私はイル・プルーの入門速成科に通っていまして、授業中にも弓田さんからいろいろ話を聞いていました。
ちょうどその頃、子どもが出来て、我が子に何がしてあげられるだろうかと考えた時に最初に浮かんだのが食べ物のことでした。食べ物で健康な身体を与えてあげることが、一番ではないか、と思ったわけなんです。
それでいろんなことを調べ始め、最初に『食べるな危険』という本を読みまして絶望的な気持ちになったんです。今の日本であの本を読んじゃうと、もう食べられるものがない。そこで食べ物で100%健康を得るのは無理だとしても、「食べ方」でカバーすることが出来るんじゃないかと探していた時に、弓田さんが食の本を出すと知ったんです。
あの当時は今みたいに自然派の料理に対する情報も少ない時代で、まだまだ「食べ方」について調べようとしても、提案している本もなかったんですよね。
「ごはんとおかずのルネサンス」を読んだ時、これが自分の求めているものじゃないかなと思いました。マクロビオティックも、正直「やっても無駄」といったら変ですが、私はパン職人ですけれど、そういう肉体労働系の人間にとっては、マクロビごはんでは力が出ないんですよね。体力仕事なので身体が資本というのは痛感していました。
──タンパク質の種類が少ないからなんでしょうかね。
木内 現代人みたいに力を使わない人にはいいのかもしれませんが、私のように肉体労働をしている人間には向かないなと思っていますね。
──厨房でも、昔の人たちは終わった後に酒飲んで、次の日また朝5時に起きて仕事をしていたそうなんですが、今の子にはそういう体力がないと言いますね。それで何が原因なのかなと思っていた時に、食べ物に辿りついたんです。
今ではイル・プルーの賄いも、ルネサンス風にイリコを入れた料理を食べたりしていますよ。
木内 ルネサンスごはんを食べると、力の出方が全然違いますよ。エネルギー入れてるなって感じがしますもん。
──そうですか。ルネサンスごはんの考え方には最初からすんなり入っていけたんでしょうか? アク抜き・下茹でしない、いりこを何にでも入れる、砂糖・みりんを使わない、アーモンドなども煮物に入れるなど、今までのセオリーと真逆の提案だったと思うんですが。
木内 私はあまり抵抗はなかったですね。それまで一般的な作り方に何も疑問を持っていませんでしたが、とりあえず自分の身体でルネサンスごはんを試してみようと思い、始めました。
まずは取り組みやすいので、基本のごはんを作るようになりました。うちは玄米中心にしたんですが、それプラス我が家なりに豆類や穀類(黒豆、小豆、雑穀など)を混ぜ、塩、煮干しを刻んで加え、昆布も入れて……。とにかく入れられるものは全部入れました。あとお味噌汁ですね。それまでは普通の家庭と同じように味噌に一つ二つの具しか入れていませんでしたが、とにかくあるものを全部入れちゃうという感じで、今では我が家の味噌汁は、汁なのか具なのか分からないというところまで来ています(笑)。
──さすがルネサンスごはん歴10年のベテランですね! 実はルネサンスごはんを始める時の悩みとして、ご家族の反対に合う、という方もいらっしゃいます。木内家ではそのへんは如何でしたか?
木内 実は私、ずっと低体温で肥満症だったんです。でもルネサンスごはんを食べ始めて3ヵ月ぐらいで体質がどんどん変わり出して、まず物凄く痩せました。それまで75㎏ぐらいあったのが、3ヵ月で5キロぐらい減りました。毎日毎日身体から脂肪がなくなっていくのを感じるんです。多分、本来身体が持っているサイクルに切り替わったんだろうと思います。ルネサンスごはんと出会って、いかにそれまでが間違った生き方だったのかと感じました。
ごはんを変えてから、仕事をしていても疲れにくくなりました。結局半年で10キロ減りました。それが驚異的でした。前は二重あごでお腹も大きくて。よっこらせ、という感じでした。体重が重いので膝も悪くて。とにかく若かったですが今より体調は酷かったです。
今、57~8キロぐらいで落ち着いています。もう少し太らないと体力的に持たないかなと思っているくらいです(笑)。
──弓田も菓子屋の職業病で腰痛があったんですけれど、筋トレをするようになったらよくなったと言っていました。ごはんと運動、両方大事みたいですね。
木内 そうですね。食べ物だけだと偏りはどうしても出ますよね。医療でもホリスティックといって総合的に考えるというのがあるじゃないですか。身体も全くその通りだと思います。食べ物からだけじゃなくメンタルな面、あと環境汚染。自分達が思っている以上に今の状況は酷いんじゃないかなと思いますね。
これは食べ物だけじゃ追いつかない。環境を替えていく努力もしていかないと、と。特に都心で生きているとね。そういう努力をしないと毎日の生活を維持していくことも大変だと思います。
そこで我が家では、子どもが生まれる前にクーラーはやめました。子どもにクーラーがよくないと当時何かの記事で読んだもので。夏は正直キツイですけど何とかなっちゃいますね。
2011年3月11日の震災で自分もショックを受けましたが、今まで環境や食のことなどに無関心だった人が興味を持つようになったんじゃないかなと思います。特に今はネットという手段があって、心ある人が繋がるのが早くなったような気がしますね。
──ルネサンスごはんも2003年に出した時と今ではちょっとずつ受け取られ方が違うと思うんです。多分、初めに弓田が「ごはんをやるんだ!」と言いだした頃は、社内でも「なんで菓子屋なのに和食なんだろう」って思っていたところもあると思うんです。でも実際に物が出来て、講習会で食べる人がいて、今は割と皮をむかないみたいな手をかけないことも増えてきたので、昔より捉え方が違ってきたんじゃないかなと思いますね。
木内 普通の人たちも食べ物への関心がナチュラルなものに向かっているので、ルネサンスごはんに関心が向きやすくなっているんでしょうね。
僕もいろいろ試してみたんです。オーガニックにこだわるとか、マクロビをやるとか。でもそうなるとより低農薬の食材を毎日買おうと思うと経済的に難しいんですよね。そういう意味でも、ルネサンスごはんは普通のスーパーで手に入る食材が基本なので、かなりの面で理想的なものが出来ると実感しています。
自分の身体もそうですし、自分の子どもも凄く元気なんですよ。
──お子さんも低体温だったと伺いましたが。
木内 そうですね。私たち夫婦ともそろって低体温(特に私は35.6~7度)だったせいか、息子も生まれた時は低体温(36.3~4度)でした。それが2年くらい前から改善し始め、今では息子36.7度、私は36.4~5度とかなり改善されました。
また3歳くらいまではよく風邪をひいていましたが、最近は全く無縁です。そして5~6歳の頃から、がっしりと骨太になってきました。幼稚園でもよく「お宅のお子さんは元気ですね」と言われましたよ。
また小さな頃からスナック菓子やジュース類は一切与えず、玄米ごはん、野菜中心で来ましたので、歯並びがよく、虫歯とは全く無縁。親の私が羨むほどの歯の健康優良児です。
──では、食を中心として、弓田が言う「強い身体を作る」というのは実証出来た感じですね。
木内 そうですね。アレルギーもうちの子はないですね。免疫の面でも間違いなく効果出るでしょうね。
昨今のマスコミが、何か一種類の食材がいいとなると、そればかり取り上げるような風潮もよくないと思いますね。弓田さんのルネサンスごはんが素晴らしいと思うのは、とにかく全ての要素を入れている事だと思います。
これだけ食材が弱った状況の中で出た結論が「ルネサンスごはん」なのだと思うんですが、そのごはんの持つ力は、自分で実際に試してみて、本当に実感しましたし、「いろんな要素の組み合わせを凝縮している」というポイントが分かれば、多少食材で利用できないものがあったとしても、代用がきくようになると思います。
食べる人が幸せになってくれる。食べる瞬間に喜びを与えてくれる。そこに重要さを抱かせてくれたのが、弓田さんのルネサンス料理なんです。テレビに登場する料理人たちと、弓田さんとの決定的な違いはそこにあると思います
──普段作っているメニューで、白いごはん以外で好きなものはありますか?
木内 カレーはしょっちゅう作りましたね。あと煮物ですね。レシピ通りというわけではないですが、同じように乾物をたくさん使って作っています。
そのうち「ミネラル煮物」と呼ぶ常備食を作るようになりました。乾物と豆だけ煮込んで作った惣菜で、それを煮物でも何にでも加えちゃうんです。他で少々手抜きをしても、これで補えますね。夏場でなければ冷蔵庫で一週間ぐらいは持ちますよ。
──普段の料理も木内さんが作っているんですか?
木内 いえいえ。普段は嫁さんが作りますよ。大体、忙しいと温野菜などが多くなるんですが、それに必ず、先ほどのミネラル煮物を加えたりします。
私は豆って凄く大事だなと思っています。ごはんにも我が家では黒豆や小豆を入れているのでおいしいですよ。豆を食べるとワンランク上のパワーが出るように思います。
──白米も加えていますか?
木内 今は、白米は混ぜず玄米だけになりましたね。それに雑穀や豆類などを加えています。人によっては体質的に合わない人もいるみたいですが、うちでは体質に合ったみたいです。
それに白米の時は飲み込むような食べ方をしていましたが、玄米にしてから自然とよく噛むようになりましたね。
味つけはシンプルに塩、醤油が多いです。温野菜を食べる時はオリーブオイルやワインビネガーもよく使います。ちょっと前まで区民農園を借りて6年くらい野菜を作っていました。やっぱり自分で作るとおいしさが全然違います。「生きているものを食べている」という実感が沸きますね。食べ物への感謝も実感しますし。
──農園やっている時はお子さんも手伝っていたんですか?
木内 はい。収穫の手伝いなどしましたよ。そういうことをやると、食事も残さないようになりますね。食べ物に対する感謝の気持ちが自然と芽生えてきます。「食育」って言いますけれど、まずは自分達でちょっとでもいいから畑をやってみるのもいいですよね。
──これからルネサンスごはんをやってみようかなって思う人へのこういうことから始めた方がいいよ、というアドバイスはありますか?
木内 自分のやれる範囲でやった方がいいと思います。難しく考えないこと。
私の場合、当時、子どものために何とかしなきゃ、という決心があった時期なので、何とかしてものにしよう、という感じで取り組んできました。現在、子どもが健康に育っていくのを見て、ルネサンスごはんに出会えたことに本当に感謝しています。
最近は味噌も自分で手作りしています。結構簡単ですよ。
そもそも私は、お菓子の勉強をちょっとしてみたいなと思って調べて、自分の休みとスケジュールの都合がよいのでイル・プルーの教室に通い始めました。それまではお菓子なんて甘ければそれでいいと思っていたんです。でもイル・プルーでシャルロット・ポワールを作った時、これはプロ以上の味だって思ったんです。それが自分の手で作れる。こんな素人の自分でも作れるという喜びが凄く大きかったです。
そこからです。お菓子って凄い。これを考えた弓田さんってもっと凄い、と思うようになりました。その時に食べ物に対する概念が変わってしまったんですよね。お菓子がこんなに人を感動させるということ。尚且つそれを学び、自分で作れる喜び。
自分もパン屋で働いていて食に携わって生きていたはずなのに、何も知らなかったんだなって思いました。それが凄く自分にとっては大きかった。感謝ですよ。
弓田さんとの出会いがなかったら、ここまで「食」について理解出来なかったと思います。そういう意味で私にとっては恩人ですね。
──ぜひこれからもルネサンスごはんライフで健康を保って下さいね。どうもありがとうございました!