第3回:近松恵美子さん(玉名市議・玉名元気ネットワーク主宰/熊本県玉名市)
近松恵美子さん プロフィール
熊本県玉名市の市議会議員であり、玉名元気ネットワークを主宰。
「私が食のあり方について追求するのは、もっと健康になりたいから、という動機ではありません。それより人間本来の食の姿を追い求めている、といったほうが的確な表現になると思います。食を窓口として、社会・家庭・農業・政治など多くの問題が見えてきます。しかし現実には半病人が多く、健康を求めて食を学ぶ人が多いのが事実です。そのためには尋ねて来られた方が確実に元気になるものでなくてはならないと思っています。しかし現実には、病気の8割はストレス、といわれていますので、食、動、心の3点から健康を考える必要があるのだと伝えています。食に関心を持って来てくださった方が、必ずどなたでも元気になれるように、色々な角度からアプローチしています。食べ物は大切ですが、それは単に物質的な効果だけでなく、テーブルに出されるまでの心遣いまで含めたとき人々の心身の健康に大きな影響を与えるものではないかと思います。」と語るように、様々な観点から玉名の人達と共に健康を考えながら日々奔走している。
【その1】弓田さんの本を読んだ時、自分と同じ人種だなと感じました。
思い込みの強さ、正義感、歯がゆく思う心、思うようにならない悲しみ──。
その思いを伝えたいと、講演会を開くことを決意したのが全ての始まりです。
──まずは近松さんがルネサンスごはんと最初に出会ったキッカケを教えてください。
近松恵美子さん(以下、近松) どの記事で弓田さんのことを知ったのか思い出せないのですが、《食品と暮らしの安全》の記事に あることを知り、電話をしてバックナンバーを取り寄せて読みました。食材から香りが失せた、という記事を読んだのがはじまりです。それからネットで調べて、「破滅の淵の裸の王様」を読み、講演依頼のメールを送りました。2010年の正月のことでした。
──その時、弓田から「失われし食と日本人の尊厳」を読んでもらい、それでも気持ちが変わらなければ、ということでお送りしました。
近松 そうですね。実は1998年から、「大地といのちの会」の吉田先生が提唱する生ごみリサイクル野菜について学び、普及をはかってきました。そのなかでミネラルの多い、おいしい野菜づくりについて少しばかり学んでおりましたので、弓田さんが仰る「野菜の力そのものが失われている」ということも感じていました。
その後送って頂いた『失われし食と日本人の尊厳』を読み、弓田さんと私では、スケールは違うけれども同じ人種だな、と感じました。思い込み の強さ、正義感、はがゆく思う心、思うようにならない悲しみ…。ぜひ、玉名の人達に、弓田さんの考えを伝えたい。玉名市民会館の大ホールに、600人集めて講演会を開こうと私は決心したのです。本を読み終えたとき、一人で決心したのです。そのとき何も恐れませんでした。
──近松さんをそこまで駆り立てたものは何だったのでしょう?
近松 一番は、日本の食材は恐ろしいことになっていることに対する危機感でした。このことを知ってもらいたいと。「香りが失せた」という感覚的な表現は、食材の栄養が減ったきたことを素人も判断できる大事な視点だと思いました。
また今まで、保健師をしていましたが、栄養指導というのは時代とともに変わります。塩は高血圧の原因だとか、コレステロールにはイカがよく ないとか卵の黄身が駄目だとか。ところが、今ではあまり言わない。まるで反対の考えを主張する人もあり訳がわからない。そのうえ、食にこだわっている人も、あんまり考えない人も健康レベルは変わらない。頭から入る栄養学を学ぶと、健康のためには特においしいと思わなくても食べていた人達も多かったと思います。
弓田さんが他の方と決定的に違うのは、「おいしさ」つまり、「味」と「香り」から語られている点です。「おいしさから始まる栄養学」だと思 います。知識からではなく、「味」から入っていることは魅力だと思いますし、これは時代が変わっても普遍的な理論ではないかと思います。そして、その考えというのが、お菓子作りを通して、食材の力がフランスと違うことさらに、日本の食材は年々食味が劣化してきているというのを、舌で、感じてきたことに由来するということ。このような視点は、これまでどなたも指摘していなかったと思います。
そして、「食材に力を与える」という視点で、家庭料理を開発されたことも画期的なことだと思います。電子レンジや冷凍でどのように栄養素が変化するのか、私は本当のところわかっていませんでしたが、悪いと言われるから悪いのだろう、というくらいの認識でした。しかし栄養素の分析をしなくても、味で判断していけばよい、ということを知ったのは、私のような半分栄養学を勉強した頭人間には画期的な発想でした。
──おいしさから始まるところが今までの「健康」や「食」を語る人とは違うということですね。なるほど。
近松 「食」については、色々な考え方があり、何を信じたらよいのかわからなくなることがあります。あまりこだわらない人が結 構元気で過ごされたりしている現実もあります。そのような中で、「おいしい」とは、身体が求めている感覚、という弓田さんのお話は、食にとっての原点ではないかと思います。しかし、弓田さんの言われる、心と体が喜ぶおいしさ、というのは、言葉ではわからない。食べてみないとわからない。そのため、弓田さん の主張が今ひとつ理解していただけない場合があるように思います。
──近松さんは「食」だけに限らず、玉名元気ネットワークでも、フラワーエッセンスなど、様々な取り組みをされていますね。
近松 例えば日本の医療制度。こんなに安く、迅速に、精密な検査と診察をしてもらえる国は他にはありません。それだけに国民が乱用するならば、国民健康保険制度は破綻します。このままでは20年後は税金の大半を医療費と介護に使わなくてはならないようになるでしょう。そして一方 でお金のない人は十分な医療福祉サービスを受けられない。そんな格差が広がる社会となる恐れは十分あります。
玉名の病院でも、患者が多い、診察に時間のかかる患者が増えてきている、と言われます。医者が治せないから患者が多いのではないかと私は思います。今の医療は、「ストレスが引き起こしている病気」「身体の歪みからくる病気」「現代型栄養失調症」の治療は苦手だと思いますよ。
一方、例えばイギリスではフラワーエッセンス療法が盛んです。何故なら日本のようにそう簡単に病院には通えないからです。受診したその日にレントゲンを撮ってもらえることなどありません。ですから自分で何が出来るのかを考えるんです。
──確かに医療制度を過信せず、自らの健康を自らで立て直すことが出来るのであれば、膨れ上がる医療費や保険料を軽減できるかもしれませんね。でもその一方で、「食の改善」を訴えてもなかなか広まらないジレンマも感じてらっしゃる。
近松 そうですね。ある時、比較的3世代同居の多い地区の小学一年生に、朝味噌汁を飲んでいるか尋ねました。すると30人中5人しか飲んでいないと言うんです。野菜が豊富な田舎で、この実態ですよ。年配の方でも、味噌汁には豆腐とワカメしか入れたことがない、という人もいました。
母子手帳をもらいに来た妊婦さん10人のうち3人はご飯を作らないで夕方の安くなった弁当を買って食べていると答えた、と保健師がびっくりしていました。
──田舎だと郷土料理をしっかり食べているようなイメージがあると思うんですが…。それは意外でした。朝ご飯を食べない子どもたちというのは、特に都会だけの現象ではないのですね。
近松 そうだと思います。味噌汁を作るにしても、出汁は「ほんだし」、味噌はいろいろ添加物が入っているものを使っています。農協の直売所でも無添加の味噌を見つけるのは難しいのですから。一体どうなっているの?と思います。どこから始めたらよいものか。どうにかしなくては、 といつも思っています。
──変えていくことは難しいでしょうか。
近松 「心と身体を食べ物で元気に」と言っても、なかなか広まらない理由は、特に食べ物に気を付けていなくても健康だと思っている人達がいるからです。そして、たんぱく質とご飯と野菜を食べていればバランスが取れていると考える人が多いのです。そしてそれでおいしいと思っている人があまりにも多いのです。
──別に今、身体に問題がないのに、何故、慣れ親しんでいる食を変えなければならないの?ということですよね。
近松 教師、医師、栄養士、保健師など一応専門家という人が言った言葉は重いのですが、逆に専門家が言わないことは一般の人がなかなか受け容れられないです。専門家がまた、自分たちは十分に分かっている、とばかり勉強してくれないので、それが一番ネックになっています。講演会に もほとんど来られません。“専門家”という方々は職業人ですので、忙しくて、昼食は弁当を買って食べたり、夕食もコンビニ弁当だったりしている方もいるのです。自分たちも手間ひまかけてご飯を作る時間がない人たちが、教えられた食事指導を“仕事として”しているだけで、それで健康になったという実感を持っ ているわけではない、食べ方と健康は別ものでも疑問を感じない、という食事指導がまかり通っているのが現実です。
【その2】2010年、春と秋、二度の講演を経て──。私はルネサンスごはんを一人でも多くの人に理解してもらいたいのです。何故なら、ルネサンスごはんを継続し、日本人の尊厳を取り戻すために、です。
【その3】これからも料理教室をやりながら、地道にルネサンスごはんの普及を続けていきます。